
なぜ企業はビットコインを買うのか?マイクロストラテジーが切り開いた新時代の財務戦略
こんにちは、アールグレイです。
2020年8月、ビジネスインテリジェンス企業のマイクロストラテジーが2.5億ドル相当のビットコインを購入したとき、多くの人が驚きました。
「え、上場企業が暗号通貨?正気?」
でも、それから5年。今では数多くの企業がビットコインを保有し、その総額は1000億ドルを超えています。
テスラ、Block(旧Square)、そして日本のメタプラネットまで。なぜこれらの企業は、価格変動の激しいビットコインを財務資産として選んだのでしょうか?
今日は、企業のビットコイン戦略について、その狙いとリスク、そして未来について深掘りしていきます。
マイクロストラテジーの大胆な賭け
すべての始まりは、マイクロストラテジーでした。
2020年8月、同社は約21,454BTCを2.5億ドルで購入。当時のCEOマイケル・セイラーは「現金よりもビットコインの方が優れた価値保存手段だ」と宣言しました。
それから5年、マイクロストラテジーの戦略は加速の一途をたどります。2025年現在、同社は約628,000BTCを保有。これは発行済みビットコインの約3%に相当します。
でも、ここで疑問が湧きますよね。なぜソフトウェア企業が、本業とは関係ないビットコインに社運を賭けたのか?
答えは「インフレへの恐怖」と「法定通貨への不信」でした。
2020年、コロナ禍で各国政府は大規模な金融緩和を実施。お金をジャブジャブ刷った結果、通貨の価値は薄まり、インフレが加速しました。
セイラーCEOは考えました。「企業の現金を銀行に置いておくだけでは、インフレで実質価値が目減りする。それなら、供給量が決まっているビットコインの方が価値を保てるんじゃないか?」
そして彼は、単に余剰資金を投資するだけでなく、転換社債や新株発行で資金を調達してまでビットコインを買い続けました。まさに「オール・イン」の姿勢です。
結果はどうだったか?
2025年時点で、マイクロストラテジーの保有ビットコインの時価は約740億ドル。取得コスト約460.7億ドル(平均約73,277ドル/BTC)に対して、約1.6倍の評価額です。
株価も連動して上昇し、一時は「ビットコインETFの代替品」として機関投資家からも注目されました。
もちろん、2022年の暗号資産市場の暴落時には巨額の減損損失を計上し、批判も浴びました。でも、セイラーは売却せず、むしろ買い増しを続けました。
「ビットコインは100年後も存在する。短期の変動は関係ない」
これが彼の信念でした。
テスラの現実的アプローチ
一方、イーロン・マスクのテスラは、もっと現実的なアプローチを取りました。
2021年1月、テスラは15億ドル相当(約42,000BTC)のビットコインを購入。これは当時の現預金の約8%でした。
テスラの狙いは「現金の柔軟な運用」。マイクロストラテジーのような「ビットコイン至上主義」ではなく、ポートフォリオの一部として組み入れたのです。
面白いのは、テスラが一時ビットコインでの車両購入を受け付けたこと。これは単なる投資ではなく、決済手段としての可能性も探っていたんです。
でも、環境問題への批判を受けて、この試みは数ヶ月で中止。そして2022年には、保有ビットコインの75%を売却しました。
「資金が必要だったから売った。ビットコインへの信念が変わったわけじゃない」
マスクはそう説明しましたが、この柔軟な姿勢こそがテスラ流。必要に応じて買い、必要に応じて売る。ビットコインはあくまで「道具」という位置づけです。
現在も約10,000BTCを保有していますが、これはテスラの総資産から見れば小さな割合。リスクを限定しながら、将来の可能性は残しておく。まさに大企業らしい戦略です。
日本企業の挑戦:メタプラネットの転身
日本からも興味深い事例が生まれています。メタプラネットです。
もともとホテル事業を営んでいた同社は、コロナ禍で深刻な経営危機に陥りました。6期連続の営業赤字、存続すら危ぶまれる状況。
そんな中、2024年4月に下した決断が「ビットコイン財務企業への転換」でした。
「円の価値低下への備え」を掲げ、大規模な増資で調達した資金をビットコイン購入に充当。2025年6月末時点で約13,350BTC(当時の世界6-7位相当)を保有していましたが、その後も積極的な買い増しを続け、2025年8月4日現在では約17,595BTC(価値約20.8億ドル)まで拡大。8月4日だけでも463BTC(約5,400万ドル)を追加購入し、世界第6位前後のビットコイン保有企業となりました。
この大胆な戦略転換により、メタプラネットの株価は急騰。2024年12月期には6期ぶりの黒字転換を果たし、継続企業の前提に関する疑義も解消されました。
でも、これは単なる投機ではありません。同社は「株主の皆様を代表して、可能な限り多くのビットコインを蓄積する」という明確な理念を掲げ、ビットコインを企業買収の担保として活用する計画も発表しています。
日本企業としては異例の戦略ですが、既存事業の限界を打破する「起死回生の一手」として、ビットコインを選んだのです。
なぜ企業はビットコインを選ぶのか
ここまで見てきた企業の事例から、ビットコイン購入の動機が見えてきます。
1. インフレヘッジ
法定通貨の価値が下がる中、供給量が限定されているビットコインは「デジタルゴールド」として機能します。特に長期保有を前提とすれば、インフレに対する防御策になり得ます。
2. 新たな成長戦略
マイクロストラテジーやメタプラネットのように、ビットコイン保有自体を企業価値向上の柱とする戦略です。本業が成熟・衰退している企業にとって、新たな成長ドライバーになります。
3. 先進性のアピール
ビットコインを保有することで、テクノロジーへの理解と先進性をアピールできます。特にテック企業にとって、イノベーティブな企業イメージの構築に寄与します。
4. 将来への布石
ブロックチェーン技術やデジタル通貨が普及する未来を見据えた投資です。今から経験を積んでおくことで、将来のビジネスチャンスに備えます。
リスクと課題
もちろん、企業のビットコイン保有にはリスクもあります。
価格変動リスク
最大のリスクは価格の激しい変動です。2022年のように50%以上下落することもあり、財務諸表に大きな影響を与えます。
規制リスク
各国の規制は流動的で、将来的に厳しい規制が導入される可能性もあります。特に中国のように、暗号資産を全面禁止する国も存在します。
セキュリティリスク
ハッキングや秘密鍵の紛失により、保有資産を失うリスクがあります。企業レベルでの厳格な管理体制が必要です。
株主の理解
すべての株主がビットコイン戦略を支持するわけではありません。保守的な機関投資家からは批判を受けることもあります。
これからの企業財務戦略
2025年から、米国では暗号資産の公正価値評価が会計上認められるようになりました。これにより、ビットコインの価格上昇が直接企業の利益に反映されるようになり、保有のインセンティブが高まっています。
また、ビットコインETFの承認により、機関投資家の参入も本格化。企業がビットコインを保有することへの抵抗感も薄れつつあります。
今後は、以下のような動きが予想されます。
1. 保有企業の増加
特に、インフレ懸念の高い国や、本業が低成長の企業を中心に、ビットコイン保有が広がるでしょう。
2. 保有戦略の多様化
マイクロストラテジー型の「オール・イン」から、テスラ型の「ポートフォリオの一部」まで、各社の事情に応じた多様な戦略が生まれるでしょう。
3. DeFiの活用
単に保有するだけでなく、DeFi(分散型金融)を活用して、ビットコインから収益を生み出す動きも出てくるかもしれません。
4. 他の暗号資産への拡大
ビットコインだけでなく、イーサリアムやその他の暗号資産を保有する企業も増える可能性があります。
最後に:新時代の財務戦略
企業のビットコイン保有は、もはや「変わり者の奇策」ではありません。
インフレ、通貨安、低成長。これらの課題に直面する企業にとって、ビットコインは新たな選択肢を提供しています。
もちろん、リスクは大きい。価格は乱高下し、規制も不透明。すべての企業に適した戦略ではありません。
でも、マイクロストラテジーが示したように、大胆な戦略が大きなリターンをもたらすこともある。メタプラネットのように、危機を機会に変えることもできる。
重要なのは、盲目的に追従することではなく、自社の状況を冷静に分析し、最適な戦略を選ぶこと。
ビットコインは「魔法の杖」ではありません。でも、使い方次第では、企業の未来を変える「武器」になり得るのです。
さて、あなたが経営者だったら、ビットコインを買いますか?
激動の時代、企業財務も進化を続けています。その最前線で起きている変化を、これからも一緒に見守っていきましょう。
この記事のポイント
- ✓マイクロストラテジーは約628,000BTCを保有し、世界最大の企業ビットコイン保有者
- ✓取得コスト約460.7億ドルに対し、2025年時点で約740億ドル(約1.6倍)の評価額
- ✓インフレヘッジと法定通貨への不信が企業のBTC購入の主な動機
- ✓テスラは現実的アプローチで一部を保有、必要に応じて売却も実施
- ✓日本のメタプラネットは約17,595BTC(2025年8月現在)を保有し世界第6位前後
- ✓2025年から米国で公正価値評価が可能になり、保有インセンティブが向上
よくある質問
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